診療科 集中治療科

痛みについて

はじめに

なぜ、痛みについて書いたのかというと、Less is Moreという本を読んだからです。

1時間もかからず、全部読めます。

著者も書かれていますが、多くは知っていることが書かれています。

勉強する時というのは、8割知っていて2割知らないくらいがちょうど良いと思います。

これが、逆だとちょっと読み進めてはわからずの繰り返しになります。

よく英語学習でも言われますが、なるべく簡単な絵本から始めるとよいと推奨している方もいらっしゃいます。

そのへんのバランスが丁度よい、そんな本です。

それで、読書感想をまとめてみようと思ったのですが、結局うまくまとまらず。

痛みだけで終わり、しまいには自分の意見を書いて終わりになってしまいました。

ここで書いた内容によらず、Less is Moreという本はとても良い本ですのでおすすめです。

さて、Less is Moreですが、日本語ですと過ぎたるは及ばざるが如しと訳されることが多いのではないでしょうか。

個人的には、この考え方は医療、特に集中治療においてはすごくマッチしています。

例えば、輸液です。

以前は、といっても(言い方は悪いですが)集中治療の初学者的な人の場合、輸液をたくさん入れても後で引けば良いや、と言ってそれこそ無尽蔵に入れていることはよくありました。

じつは、その頃から輸液による害というのは示されていて、近年その根拠も少しづつ集積されてきたといった感じでしょうか。

以前のNEJMの編集長のインジェルフィンガーは、医療でよくなるのは10%悪くなるのも10%良くも悪くもならないのが80%と言ったそうです。

これは、医療従事者であればしっくり来る数字かもしれません。

医療とは基本的に、非生理的なことを行っています。

ホントは口から食べられるはずの人に、もしかしたら点滴を行っていたりなど。

これは、極端な例で臨床的に行われることは少なくなってきましたが、慣例的に行われていることはとても多いです。

そんな根拠を基に書かれていますので、自分たちの実践と比較しながら読み進めていただくと、臨床実践が一段回進むのかもしれません。

 

まずは、鎮痛が基本

集中治療室に入室している患者さんは、いろんな苦痛があります。

苦痛と言っても、いろいろでスピリチュアルペインといったものまであります。

まずは、集中治療室に入室している患者さんは、いろんな苦痛があるのだと認識してもらえるところから始めると、いろいろと行うべきケアが見えてくるのかもしれません。

苦痛の代表は、「痛み」です。

例えば、気管挿管されている場合は、喉の痛みがあります。

当然、ベッド上での生活が中心になりますので、腰痛などの身体的痛みも生じます。

まずは、痛みが無いかを確認しましょう。

客観的に評価するには、CPOTやBPSといった評価ツールがあります。

普通、苦痛があれば眉間にシワが寄るでしょうし、なんとなく呼吸も荒くなり、四肢には力が入るはずです。

電子カルデだけを見ていても、伝わってこないので患者さんを見に行きましょう

鎮痛を調整すべき医療者が来ない場合は、最も近くにいる看護師が痛みを代弁してあげましょう。

痛み止めに関しては、オピオイドが基本になります。

当然オピオイドには、副作用である吐気や便秘を伴います。

すなわち、副作用を超える利益がある場合に、痛み止めの使用が行われます。

オピオイドまで必要ない場合は、アセトアミノフェンが最も使いやすい薬の代表です。

アセトアミノフェンは肝代謝ですので、肝臓が悪い人には使いづらい痛み止めです。

点滴製剤もあります。

アセトアミノフェンの場合は、1回量を増やすことで鎮痛効果が得られやすくなります。

これは、髄液中の濃度を高めるためと言われています。

痛みとは、脳で感じるものです。

静注製剤の場合は、アセトアミノフェン1gを15分かけて点滴とされており、髄液中濃度が早いのも点滴とされています。

点滴の場合は、投与時間に注意することと、内服で効果が乏しい場合は1g投与できるのでアセトアミノフェンの効果という観点からの評価が行いやすいですね。

アセトアミノフェンはよく、効かないとされることもありますが、一番の原因は1回量が少ないことかもしれません。

その評価には、点滴で1gを15分で投与してみる、というのはありだと思います。

痛みの評価においては、定量的評価と定性的評価があります。

定性的とは、痛いーすごく痛いーちょっと痛いといった、ふわっとした感覚のことです。

一方、定量的評価というのは、NRSなどのスコアリングで評価する方法です。

NRSとは、0-10のうち、どのくらいの痛みですか?と聞いて、痛み止め投与前後で評価するようなやり方のことです。

痛みとは、最も体験しやすいものです。

例えば、スネを階段の角で強打した、足の小指を机の足に強打して爪が剥がれた、などの痛みは多くの人が経験したことがあるはずです。

つまり、どのくらい痛いのかと言うのが主観的に評価しやすいといえます。

ところが、大腿骨骨折の場合は、大腿骨を骨折したことのある人なんで、そうそういませんので、感覚として痛いんだろうな、くらいしかわかりません。

さらには、外傷で腕がちぎれそうになっている場合や、足が違う方向を向いている、等の場合は痛いのはよく分かると思います。

けれども、そういった多発外傷の場合は、治療している側もアドレナリンがでて、痛み止めを忘れがちになります

まず、行うべきは蘇生と原因の解除(止血など)とともに、痛み止めを忘れないようにしたいものです。

ちなみに、アセトアミノフェンの場合、以前は血圧低下をきたしづらいとされていましたが、血圧低下することが明らかになっています

例えば、低血圧の外傷の場合は使いづらい選択肢かもしれませんが、痛み止めは総じて血圧を低下させますので、血圧低下は次善の策として対応すべきでしょう。

通常使える痛み止めは決まっています。

基本は、副作用と効果を天秤にかけてという感じでしょう。

麻薬の場合は、集中治療室ではよく使用されていますが、色々と紛失など起こると謝罪会見にもなりかねません。

つまり、必要な人以外に使用すべきではない薬剤と言えます。

米国では、麻薬中毒は多いようで、意識障害をみたらナロキソンという拮抗薬を使いなさいと書いてあるほどです。

日本では、まず上位の鑑別には挙がらないでしょう。

 

検査前確率

この辺の概念を、検査前確率と言います。

日本の場合は、意識障害をみたら低血糖をまず疑います。

それは、諸外国でも同じですが、米国では麻薬中毒が鑑別上位に来るということは、検査前確率が高いということになります。

検査前確率とは、ある診断の可能性を考えているときに、その診断の可能性がどのくらいになるかを見積もることを指します。

2022年4月現在では、新型コロナが大流行しています。

つまり、発熱の鑑別上位は、コロナということになります。

しかし、時を遡る5年前でしたら、コロナという鑑別は極めて稀な鑑別ということになります。

このように、時や場所が変われば、検査前確率というのは変わってきます

検査前確率が高いというとは、ほとんど検査後確率が高いということと等しいです。

つまり、検査をするまでもなく特定の診断と結論づけるためには、ほとんど十分と言えます。

ところが、よくわからない時というのは、検査に依存するしかありません

例えば、風邪か新型コロナか、最近はよくわからない症状を呈することが多くなってきました。

さらに新型コロナは、重篤な症状を来す可能性の高い、コモンな感染症です。

すなわち、検査をしなさいということと等しいと言えます。

ただし、ここまで書いてきたように、検査前確率とは一般的診断においては、必要不可欠な概念でありそのへんをすっ飛ばしている現代の検査至上主義というのも、今後は見直されてくるかもしれません。

以前は新型コロナの検査陽性だけが、陽性者でしたが現在では医師の臨床診断も可能となってきています。

例えば、新型コロナ陽性と診断された家族と同居する人が、上気道症状と発熱を来たした場合、それはコロナだと判断するのが妥当です。

ただし、コロナの場合は診察が疎かになってしまいがちです。

それは、FULL PPEといわれる、マスク・帽子・ガウン・アイシールド・手袋を装着した上で患者さんを診察する必要があります。

つまり、診察が面倒になります。

そのため、診察をせずにコロナと判断してしまうと、ときに痛い目を見ることになります。

実は、発熱の原因は虫垂炎だったということもあるでしょう。

都道府県から配布された、酸素飽和度モニターで特に問題ないということで、自宅で療養を続けた結果、虫垂炎の穿孔(破裂)という可能性もあるでしょう。

本来は、病歴がもっとも重要で、身体診察は病歴を補うものになります。

こんなときだからこそ、病歴をちゃんと聴取して、身体診察をちゃんと行うべきですね。

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