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はじめに
2024年5月号のIntensive care medicine誌のEditorialに,Managing perioperative myocardial injuryというものがありました.
ざっくりと,周術期心筋障害の評価としてトロポニンが使えるのではないか,といったもののようでした.
トロポニンの立ち位置
心筋障害はトロポニンの上昇として定義されます.
周術期の高リスク外科患者さんでは,約20%に発生するとされています.
周術期心筋障害の場合は,トロポニンの測定を行わなければ分からない場合が多いとされています.
当然ですが,周術期の合併症は少ないほうがよいですが,そのリスク評価としてはトロポニンの立ち位置は確立しているとは言えません.
周術期の心筋障害(PMI: Peri operative myocardial injury)
- 1型2型心筋梗塞
- 不整脈
- 心不全
- 肺塞栓
PMIの原因
- 心臓以外(敗血症など)で11%
- 急性心筋梗塞で7%
- 頻脈性不整脈で5%
- 急性心不全で4%
にそれぞれ発生しました.
周術期心筋障害の大部分は,タイプ2心筋梗塞と推測されています.
心血管イベントの発生率 → 1年死亡率
- 心外性周術期心筋障害51% → 38%
- タイプ1心筋梗塞41% → 27%
- 頻脈性不整脈57% → 40%
- 急性心不全64% → 49%
- タイプ2心筋梗塞25% → 17%
- 周術期心筋障害なし7% → 9%
周術期心筋障害が確認された場合どうするか
術前の場合は,急性の原因として,急性心筋梗塞や急性心不全や敗血症などの原因を除外し,慢性経過の可能性が検討されます.
その後,慢性心筋障害として貧血や心保護薬が検討され,循環器医コンサルトも検討されます.
周術期の場合は,心臓以外の原因として敗血症,肺塞栓,非心臓性の合併症などが検討されます.
その後,タイプ1心筋梗塞,急性心不全,頻脈性不整脈などの検索が行われます.
最終的に,これらが検出されなければ,タイプ2心筋梗塞,頻脈,低血圧などの原因が検討されることになります.
非心臓手術後の虚血性心筋障害(MINS)の場合
ダビガトランの24ヶ月投与は重篤な出血を増加させることなく,主要な血管合併症の発生率が低下したという報告もあります.
しかし,それほど重篤ではない出血発生は増加し,45%の患者さんが中止を余儀なくされています.
ケースコントロール研究では,周術期心筋障害患者さんに対する強化療法(抗血小板剤,β遮断薬,スタチン,またはACE阻害薬)は,心臓イベントのない1年生存率に寄与していました.
コメント
心筋梗塞の診断という観点からは,トロポニンの立ち位置は確率しています.
以前は,心筋酵素とよばれる,CKやCKMBが用いられていましたが,現代では心筋バイオマーカーであるトロポニン(高感度トロポニン)が用いられています.
心筋梗塞の除外にトロポニン
診断におけるトロポニンの場合は,特に除外の場合においても重要です.
基本的にはトロポニン上昇の無い(超急性期を除いて)心筋梗塞は無いはずなので,時間と症状を見方につけ,例えば1時間後の推移や3時間後の推移を見ることができます.
以前は高感度ではないトロポニンが主流でしたので,米国ではChest pain observational unitなるものもあると聞いた事もあります.
疑わしい場合は,6時間経過見てトロポニンの推移を確認するというものです.
臨床的な注意点は,症状(胸痛)が出現した場合は,心電図をすぐに撮影する事も重要です.
一般的には,冠動脈の再灌流時間は短いほうが良いとされているので,症状と心電図で心筋梗塞の基準を満たせば,心筋梗塞の臨床診断となります.
周術期トロポニンの立ち位置
一方で,今回の周術期心筋障害としてのトロポニンの立ち位置ですが,懸念される点は根拠が不足している点が挙げられます.
心筋梗塞の診断・除外の領域と異なり,周術期心筋障害の場合は質の高いランダム化比較試験はなさそうです,
とはいえ,周術期の心筋梗塞は多く,特にST上昇を来さないNSTE-ACSが多いとされています.
NSTEMIの場合は,準緊急的に心臓カテーテル検査を行います.
リスクの層別化
やはり,リスク層別化で検査前確率を見積もるという基本が最も重要である気がします.
そのなかでリスクの高い人に対しては,トロポニンを測定し高ければ周術期心筋症として扱い,低くてもリスクがある場合はベースラインからのRise and Fallの確認目的でも使用できます.
便利な検査ですが,使い方を間違えると自分たちや循環器内科医師の仕事ばかりが増えることにもなりかねません.
今後
現在IMPLEMENR-PMI(NCT05859620)という研究がOngoingのようですので,その結果を持って今後の周術期心筋障害としてのトロポニンの立ち位置のガイドとなるのでしょう.
いずれにせよ,トロポニンは考えて検査を提出すれば,それなりの結果を返してきます.
逆に何も考えずに出した検査の場合も,それなりの結果を返してきます.
解釈できるように現時点では,必要なシチュエーションでのみ検査を提出するというのが妥当な立ち位置のような気がしました.