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PMRとは何か?
PMRは50歳以上の方に発症する炎症性リウマチ性疾患で、主に肩、首、腰回りの痛みとこわばりを特徴とします。
朝のこわばりが特に強く、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
名前に「筋痛」という言葉が含まれていますが、実際には筋肉ではなく、関節周囲の滑液包や腱鞘などの炎症が主な病態です。
疫学 - 誰がかかりやすいのか
PMRはほぼ例外なく50歳以上の方に発症し、年齢が上がるにつれて発症率が高くなります。
最も多いのは70〜80歳の年齢層です。女性は男性の2〜3倍の頻度で発症します。
地域差もあり、北欧諸国や北ヨーロッパ系の人々での発症率が高いことが知られています。
例えば、ノルウェーでは50歳以上の人口10万人あたり年間113人の発症率であるのに対し、イタリアでは同13人と大きな差があります。
巨細胞性動脈炎(GCA)との関連
PMRは巨細胞性動脈炎(Giant Cell Arteritis:GCA、側頭動脈炎とも呼ばれる)と密接な関連があります。
GCAを持つ患者の約50%がPMRを発症する一方、PMR患者の5〜30%がGCAを併発すると報告されています。
実際、PMRと診断された患者の約23%に、症状のないGCA(無症候性GCA)が存在するというデータもあります。
そのため、PMR患者さんは常にGCAの症状(新たな頭痛、顎の痛み、視力障害など)に注意を払う必要があります。
GCAは適切に治療されないと、失明などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるからです。
病態生理 - 体の中で何が起きているのか
PMRの正確な原因はまだ解明されていませんが、自己免疫系の異常が関与していると考えられています。
興味深いことに、PMRとGCAは特定のHLA-DR4遺伝子多型を共有しており、これが抗原提示と免疫応答に関わっている可能性があります。
また、PMRでは炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)が上昇しており、これが全身症状の原因となっていると考えられています。
最近の画像診断の進歩により、PMRでは主に肩の滑液包炎(特に肩峰下・三角筋下滑液包炎)や上腕二頭筋腱鞘炎、股関節周囲の滑液包炎などの炎症が見られることがわかってきました。
つまり、PMRは筋肉の病気ではなく、関節周囲の組織の炎症性疾患なのです。
臨床症状 - どのような症状があるのか
PMRの主な症状は以下の通りです:
- 肩、股関節、首の対称性の痛みとこわばり(特に朝に悪化)
- 長時間の朝のこわばり(45分以上続くことが多い)
- 日常生活動作の困難(服を着る、靴下を履く、ベッドから起き上がるなど)
- 全身症状(倦怠感、食欲不振、体重減少、微熱など)
肩の痛みは患者さんのほぼ全員(70〜99%)に見られ、首と股関節の症状はそれぞれ約70%、50%の患者さんに見られます。
典型的には、肩と股関節の両方に症状がある方が70〜80%、肩だけに症状がある方が20〜25%、股関節だけに症状がある方は稀(5%未満)です。
特徴的な所見として、肩の動きが制限され、特に肩を90度以上挙上できないことがあります。
検査所見 - どのような検査で診断するのか
PMRの診断に重要な検査値は以下の通りです:
- 赤血球沈降速度(ESR)の上昇 - 一般的に40mm/時間以上、時には100mm/時間を超えることもあります
- C反応性蛋白(CRP)の上昇 - ほぼ全例で上昇し、ESRよりも感度が高いとされています
- 貧血(軽度の正球性貧血)が見られることがあります
- リウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体は通常陰性です
画像診断では、超音波検査やMRIで両側の肩峰下・三角筋下滑液包炎や上腕二頭筋腱鞘炎が特徴的に見られます。
PET検査では、肩、股関節、頸椎・腰椎の棘突起などでのFDG集積増加が見られることがあります。
診断アプローチ - どのように診断するのか
PMRの診断には特異的な検査はなく、以下の臨床的特徴に基づいて診断されます:
- 50歳以上であること
- 両側の肩や股関節の痛みとこわばり(45分以上持続)が少なくとも2週間以上続いていること
- 炎症マーカー(ESRやCRP)の上昇
- 低用量のステロイド(プレドニゾン15〜25mg/日)で症状が速やかに改善すること
診断の際には、GCAの合併や、他の疾患(特に高齢発症の関節リウマチ)との鑑別が重要です。診断が難しい場合や非典型的な症状の場合は、超音波検査やMRIが補助診断として役立つことがあります。
鑑別診断 - 似た症状を呈する疾患は?
PMRと鑑別すべき主な疾患には以下のようなものがあります:
炎症性疾患
- 関節リウマチ(特に高齢発症の血清陰性関節リウマチ)
- 脊椎関節症
- RS3PE症候群(寛解性血清陰性対称性滑膜炎・浮腫性手症候群)
- 炎症性筋疾患(皮膚筋炎、多発筋炎)
- 他の血管炎
- 冠椎症候群(Crowned dens syndrome)
- 感染症
非炎症性疾患
- 線維筋痛症
- 局所の筋骨格系疾患(両側の肩腱板損傷など)
- 骨疾患(多発性骨髄腫、転移性骨腫瘍など)
- 悪性腫瘍
- 甲状腺機能低下症
- パーキンソン病
- うつ病
- 薬剤誘発性筋痛・筋炎(スタチンなど)
特に高齢発症の関節リウマチとの鑑別が最も難しく、初期にはPMRと診断された患者の約20〜30%が最終的に関節リウマチと再分類されることがあります。
長期間の経過観察が必要なケースもあります。
まとめ
PMRは50歳以上の方に発症する炎症性疾患で、肩や股関節の痛みとこわばりを特徴とします。
診断には臨床症状、炎症マーカーの上昇、ステロイドへの良好な反応が重要です。
GCAとの関連を常に念頭に置き、頭痛や視力障害などの症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。
適切な診断と治療により、多くの患者さんがQOLを改善させることができます。もし50歳以上で原因不明の肩や股関節の痛み、朝のこわばりがある場合は、PMRの可能性も考慮されるかもしれません。