Contents
結論
- 結局は、体外から調整できる要素は3つしかない
- HCO3-を補充して動くのは、Strong ion difference
- このアプローチは、輸液やカリウム補正など、いろいろと便利
スチュワートアプローチ
わたしが、スチュワートと出会ったのは2003年の緑雑誌(集中治療医学会雑誌)でした。
当時は多分、スチュワートを使っている人は殆どいなかったように思います。
この緑雑誌で書かれている事が、体外から調整できる因子は3つだけということでした。
- SID
- Atot
- Co2
これら、3つだけです。
血液ガスというと、普通水素イオンをどのように動かすかということがメインテーマになります。
その理論では、アシドーシスに対して重炭酸ナトリウムを点滴すると、重炭酸が補充された結果、アシドーシスが改善するという理論になります。
実際は、不揮発性の酸であるHCO3-は調整に時間がかかりますので、HCO3-が補充されて酸塩基平衡が調整されているのだと思います。
とはいえ、ここでの考え方は極めて重要で、スチュワートの場合は、重炭酸ナトリウムの重炭酸ではなく、ナトリウムに注目しています。
低ナトリウム緊急症には、3%食塩水が使用されますが、この塩水を作っている暇がないときは、重炭酸ナトリウムを点滴する場合もあります。
つまり、重炭酸ナトリウムにはそれだけナトリウムが含まれているということになります。
そして、重炭酸補充なのか?ナトリウム補充なのか?という論争に行き着くわけです。
この論争に行き着くということが、スチュワートへの第一歩といえます。
さっきから、スチュワートと偉そうに言っていますが、実はちゃんと理解していないです。
スチュワートはちゃんと理解しようとすると、結構難解ですのでわたしのような素人は簡単に考えることが重要です。
SID: strong ion difference
SIDはスチュワートの肝といえます。
SIDは読んだとおりで、生体内の最大の陽イオン(Na+)と陰イオン(Cl-)の差の事です。
通常、40とされていますが、36という数値がよく用いられています。
この36がNa-Clの正常値ということになります。
SIDが36よりも狭小化していればアシドーシス、開大していればアルカローシスと簡単に考えることができます。
36 - (Na + Cl) = 0 というのが基準値になります。
これをSIG(Strong ion gap)といいます。
つまり、水素イオンを動かすのではなく、SIDがどのように動いているのかというところに注目します。
通常は、アシドーシスの場合Clが高値になります。
Na140で正常だとしても、Cl110の場合は正常ではありません。
いかなる時でも、NaとClはセットで考えます。
これが、SIDを理解する第一歩です。
カリウム補充
カリウムには大きく2つの種類があります。
- KCL
- アスパラギン酸カリウム
KCLでのカリウム補充の際は、SIDが正常もしくは開大している場合に用います。
通常、アシドーシスの場合は細胞内外シフトの影響で、カリウムは高値になります。
そのため、一般的にアスパラカリウムよりも、KCLの方が血清カリウムは上昇しやすくなります。
カリウム製剤の内服での補充
ちなみにKCL内服には2種類あります。
KCLエリキシルという水液製剤とスローケーと呼ばれるような錠剤です。
KCLの錠剤に関しては、何故だかわかりませんが錠が大きくて飲みづらいと評判です。
飲みづらい場合は、KCLエリキシルという水液を使用します。
水液の場合は、約10倍に水で薄める必要があります。
1mlあたり、1.3mEqのK含有ですので、30ml補充すると約40mEqの補充になります。
KCL錠剤の場合は、1錠8mEqですので、5錠服用すると40mEqの補充になります。
ちなみに、1錠でバナナ1本と同じくらいのKが補充できます。
一方、アスパラギン酸カリウムの場合は500mgで2.9mEqですので、約3mEqと憶えます。
40mEq補充となれば、6500mgの服用が必要になります。
1日最大5.4gですので、アスパラギン酸カリウムの場合はそもそも、カリウムの積極的補充には向かないと言えます。
アスパラギン酸カリウムの場合は、HCO3-を上昇させますので、アルカローシスに傾きカリウムは低下する可能性も生じます。
点滴の場合
当然ですが、抹消静脈からの点滴では、40mEq/Lの濃度でしか投与できません。
これは、KCLでもアスパラギン酸カリウムでもどちらでも同じです。
つまり、20mEq補充したければ、必ず生食が500ml入るということになります。
中心静脈の場合は濃度制限はありませんが、一般的に生食100mlにKCL10mEq程度での補充が多いように思います。
割と点滴で補充したがる方が多いですが、内服でもきちんと吸収されていれば血清K値は上昇しますので、敢えて点滴をそもそも使用する必要性は乏しいと言えます。
ただし、顕著な低カリウム血症の場合や症候性(例えば脱力や不整脈など)の場合は点滴が絶対的に必要になります。
カリウム補充量と上昇の目安
おおまかな目安として、個人的には以下のようにしています。
- 普通の人では40mEq/d
- やや低Kの人では60mq/d
- 腎機能が悪い人では20mEq/d
当然ですが、腎機能が悪い人でカリウムが高い人には、Kは入れないほうが良いですし、あくまでも目安に過ぎません。
ちなみに、ブドウ糖が無いと血清Kは高値になりますので、高Kの場合はブドウ糖含有の輸液を行います。
カリウムを入れていなくても、血清Kが上昇するということは、ちょっとした注意点かもしれません。
補充量と上昇目安として
内服だと、100mEq補充して、血清Kが1mEq上昇するイメージです。
当然ですが、あくまでも目安に過ぎませんが、通常の低K血症であれば概ね予想通り動きます。
点滴の場合は、内服薬の2倍程度、ときに3倍程度上昇します。
つまり、点滴でKCL10mEq補充した場合、血清Kは0.2−0.3mEq上昇するイメージです。
まとめ
- カリウムを見るときには、SIDに注目する
- SIDの値により、補充すべきカリウム製剤を考える
- 繰り返しますが、酸塩基平衡の調整は3つの要素(SID、Atot、CO2)を意識する