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結論
- 褥瘡は、基本的に圧迫されたことに伴う皮膚の壊死を含む損傷
- 熱源不明の発熱では、必ず考慮する
- デブリードメントを行う際は、禁忌(出血傾向)の有無を確認する
褥瘡とは
褥瘡とは一般的に、医学用語的な意味合いが強いコトバだと思います。
医学用語ということは、「ジャーゴン」に近いということになります。
医療現場では、多彩な専門用語が飛び交っています。
その中でも、やはり変なコトバというのは気になります。
例えば、ブドウ糖液のことを、ツッカといったりします。
べつに、通じればそれで良いという話もありますが、一般の人が認識できることが必要だと思ってしまいます。
というのも、職種に関わらず新入職者の場合、ほんとに意味がわからないからです。
まさに、ジャーゴンということになります。
褥瘡もジャーゴンの1つかもしれませんが、褥瘡に関しては、医学的に認められた用語ですので、妥当性を担保可能な表現ということになります。
実はこれ、英語の方がしっくりきます。
英語だと、Pressure ulcerです。
Puressureは、圧ですね。
Ulcerは潰瘍です。
Gastric ulcerは胃潰瘍です。
このように、圧迫による潰瘍が褥瘡の本来の定義になります。
ということは、圧迫がかからない部分の潰瘍は、褥瘡とは言えないということになります。
じゃあ、何ていうのかといわれると、傷の状態にもよりますが、創傷の一部ということになります。
コトバの意味がわかればなんとなく病態がつかめる
人名がついた疾患名は、正式名称の方がわかりやすい場合が多いです。
例えば、高安病という病気があります。
当然ですが、日本人が発見した病気になります。
高安病の別名は、大動脈炎症候群です。
高安病はわからなくても、大動脈に炎症が起こる病気ということが病名からは推測できます。
本来は、誰にでもわかりやすい病名の方が好ましいと言えます。
特に診断名の場合は、定義を知るということは大事な事になります。
定義で有名なものは、敗血症なども有名です。
敗血症の場合は、4年おきに診断基準が微妙に変わっているのですが、誰が見ても同じ「敗血症」という状態を表現できるように、診断基準というものが設けられています。
以前は、感染症が原因の全身性炎症反応症候群とされていました。
実はこの考え方は、とてもしっくり来るのですが、過去のものとなっています。
基本的な考え方は変わらずに、診断基準だけが変わっていっているというと言えるでしょう。
つまり、診断基準とは誰が見ても同じ状態に近い、まさに神の領域ともいえます。
デザイン
褥瘡の話に戻ります。
褥瘡と一言で言っても、多彩な状態があります。
例えば、骨まで達している状態の褥瘡。
発赤だけの、褥瘡。
その状態は、様々です。
そのために、ある程度統制がとれるようにしたものが、DESIGN_Rというツールになります。
これは、それぞれの頭文字をとったものです。
Dは深さ、Eは浸出液、Sは大きさ、Iは炎症、Gは肉芽組織、Nは壊死組織(Pはポケット)になります。
Rは、Ratingですので評価になります。
そのため、DESIGN-R評価というのは、パワー力とか、頭痛が痛いなどと似たような表現なのかもしれません。
褥瘡を管理するには、このDESIGN-Rは第一歩になります。
特に専門科との評価の整合性をはかる場合など、共通認識となりますのできちんと評価できたほうが良さそうです。
目標をどこに置くか
治療目標は、対象とする人により異なります。
とても大きな褥瘡の場合は、創の治癒を目的とせず、感染を起こさないような管理を目的とすることもあります。
一方、創の閉鎖にあたって重要な事項は、栄養です。
外科領域でも、創部の閉鎖は極めて重要な重要な課題の1つです。
手術はうまくいっても、術後の創部の閉鎖が悪いため、創部感染を生じるケースもあります。
つまり、外科の場合は創部の閉鎖までの一連のプロセスで、物事を評価することが必要になります。
栄養状態が不良な場合、どのように考えるか
褥瘡ができる人の、多くは栄養状態が不良な人です。
例外は、脊髄損傷などで動けなくなった人です。
褥瘡ができるということは、イコール栄養状態の評価は、表裏の関係です。
高齢者になると、食欲が出なくなることが問題となることがあります。
ご飯が進まない時、どうするのか?
原因が何かあるのではないか?と考えることが必要になります。
例えば、服用している薬剤の影響や、ホルモンなどの影響などを考えることが必要になります。
MEALS-ON-WHEELSといった、食思不振精査の語呂合わせもあります。
このように、多方面から食思不振へのアプローチが必要になります。
通常、食べているのに栄養状態が不良になるということは少なく、食べれなくなったことで栄養状態が不良になることの方が圧倒的に多いです。
デブリードメントをいつ行うか
褥瘡におけるデブリードメントの目的は大きく2つあります。
- 壊死組織の除去
- 感染コントロール目的のドレナージ
すなわち、壊死組織かどうかを判断する能力が必要になります。
壊死組織の場合、血流が途絶えていますので、黒くなっています。
ただし、この黒色壊死の部分は、皮膚表面だけの可能性もあります。
炎症所見がなければ、自然に脱落してきたところでデブリードメントを追加した方がリーズナブルかもしれません。
炎症所見が生じている場合が問題になります。
発熱の原因としての褥瘡
院内での発熱の原因として、皮膚軟部組織感染症(SSTI)はよくある感染症の1になります。
よくわからない発熱が継続して、抗菌薬が開始されたものの、抗菌薬の効きが悪いため、抗菌薬のカバーを広げるということが行われている病院もあるかもしれません。
褥瘡の場合は、深部での感染の場合は、皮下膿瘍と同じですのでドレナージしなければ良くなりません。
感染症の治療とは、主に2つあります。
- ソースコントロール(デブリードメント)
- 抗菌薬
最も大事なのは、抗菌薬よりもソースコントロールです。
感染症の多くは、実はデブリードメント(ソースコントロール)だけでよくなることが多いです。
抗菌薬はあくまでも、ソースコントロールができない場合の感染症プラスアルファといった位置づけになります。
とはいえ、通常はソースコントロールに加えて、抗菌薬も使用されます。
熱源精査といって、CTを撮像されても褥瘡を疑っていなければ、見逃します。
かならず、その眼で見る事が必要になります。
もう一つ厄介なのが、仙骨部褥瘡における骨髄炎です。
仙骨部は当然、骨があるので圧迫による皮膚壊死が生じます。
骨髄炎を来した場合、治療期間は4−6週間程度と長期になります。
経過中に、大腸炎を生じたり抗菌薬を使用したことによる、下痢などの合併症の可能性もあります。
デブリードメントの際に確認すべき事項
- 出血
とにかく、デブリードメントのような侵襲的な処置は出血に注意が必要です。
簡単に確認できるものでは、凝固機能のチェックがあります。
凝固機能が延長している場合は、デブリードメントを行うかどうかはよく議論した方が良いでしょう。
- 抗凝固薬
- 抗血小板剤
他には、上記のような血液サラサラ系の薬剤を服用している場合です。
通常、どの病院でも手術前の休薬期間が設定されています。
出血を伴うリスクが高い場合は、手術前休薬に準じて対応することも必要になるかもしれません。
とはいえ、褥瘡の場合は壊死組織の除去という目的の場合であれば、基本的には出血は来さないはずです。
逆に、出血をきたすリスクを伴う場合は、医師による電気メス等も準備した上での、デブリードメントの準備が必要ということになります。
まとめ
- 褥瘡は圧迫が主な原因
- よくわからない発熱では、必ずチェック
- デブリードメントを行う際は、出血傾向が無いかを確認する
- 特に仙骨部では、骨髄炎合併の可能性も考慮する