看護

看護師の大量退職後に残るものとは?

結論

看護師の大量退職は,組織の健全化の指標

一般企業からすると,異例

医療職に限らず,一人前に育て上げるのは多大な労力を要する

看護師も主体性が必要

上層部は責任を取るべき

毎年大量退職を繰り返している組織は,無能(能力ゼロ)

一方で,知的水準に関係なく遂行できる業務内容にする努力も必要

 

看護師の大量退職

毎年年度末は,看護師が大量退職します.

多くの病院はこの減少を,当然のごとく受け入れています.

もちろん,何らかの事由による退職の場合は致し方ありません.

しかしながら,事由もなく退職する看護師の方がどちらかといえば多いと思われます.

 

看護師の大量退職は組織のバロメーター

看護師は病院におけるマジョリティです.

マジョリティですが,権限としては最低ランクに位置づけられています.

たとえば,診療放射線技師のように放射線が扱えるわけではありません.

臨床検査技師のように,医師が必要としている診断にたどり着くための検査の技術もありません.

栄養士のように,栄養に関する提言も持ちわせていません.

薬剤師のように薬剤に関する問い合わせに対し,専門的回答が行えるスキルはありません.

セラピスト(OT/PT/ST)のように,専門的に患者さんの回復に対するアプローチもできません.

 

看護師は何ができるのか?

エッセンシャル思考という本があります.

極論とは極端まで論ずることです.

すなわち,異端な議論ではなく,極限まで論ずる事が極論とされています.

エッセンシャル思考では,無駄を省き必要なことに注力することで最大の成果が得られると書かれています.

これは,専門医思考とも類似しています.

たとえば消化器肝臓内科と言っても幅が広いです.

その中でも,内視鏡,特に胃十二指腸の内視鏡に特化するとします.

特化すると,極論ですが来る日も来る日も上部の内視鏡を行うことになります.

常人であれば,飽きるのが当然です.

ところが,極論(極端まで突き詰める)的思考では,極めることで成果を提示します.

 

看護師の場合の極論は?

では,看護師の場合の極論とは何なのでしょうか.

アイデンティティ・クライシスという言葉があります.

先に上げた内視鏡の専門医の場合は,一般的な内科医と比較するとなんとなく"できる感"が漂っています.

内視鏡ができる医師にアイデンティティがあるとした場合,内視鏡ができない一般内科医にはアイデンティティが無いのでしょうか.

総合診療医を例に上げますと,総合診療医はより広くより深くというのが理想です.

当然ですが,専門医レベルで各専門家と対等に議論できる医師は,それほど多くは無いでしょう.

ただ専門医よりも深いレベルで突き詰めている総合診療医がいるのも事実です.

エッセンシャル思考とは異なりますが,総合診療医の場合の強みを考えると幅の広さになります.

この幅の広さは,他の専門医ではなし得ない(時々すごい人はいますけど)強みになります.

この幅の広さに事,アイデンティティを持つべきだと思います.

 

看護師はハブ的な役割が多い

いわゆる雑用が多いのは事実です.

医師に検査よろしく,と言われれれば連れて行くのは看護師であることが多いです.

採血よろしくと言われれば,採血を取るのは看護師であることが多いです.

検査のオーダーが事前にある場合は,検査室から連絡が来て検査室に連れて行くのも看護師であることが多いです.

連れて行く,という行為だけを見ると誰でもできます.

タクシー運転手と同じです.

目的地まで連れて行く,という事象だけを見ると誰でもできます.

しかしホスピタリティを持った対応を行うタクシー運転手はプロフェッショナルと言えます.

ところがタクシー運転手の場合も,プロ意識が低い方が多く,休憩時間はタバコを吸っていたり,運転が乱暴だったり,言葉遣いが悪かったりします.

本来はタクシー運転手の中でも優劣をつけ,価格の差をつけることが必要です.

飛行機の場合は,ビジネスクラスがあります.

同じように高いお金を払ってでも移動時間を快適に過ごしたい人はたくさんいます.

 

看護師も3流のタクシー運転手のようになっていませんか

タクシーの場合,運転さえできれば誰でもなれます.

看護師の場合はそれよりも少しハードルが上がりますし,取得までの時間もそれなりにかかります.

誰でもできるような仕事は,プロフェッショナリズムに欠けます.

逆説的ですが,看護師業務に限らず誰でもできる仕事というのも必要です.

 

看護師の場合は,病院職員のマジョリティです

そのため,能力の如何にかかわらず誰が行ってもできるような仕組みを作り上げる事が必要です.

1年目でも10年目でも,同じようにできるシステム構築が必要になります.

ベーシックな部分に関しては,極限までシンプルにする必要があります.

無駄な書類などは1つにまとめ,サインも1つで済むようにする,入院時の説明はYoutubeなどの動画を利用するなど,方法はいくらでもあります.

寿司職人の場合,1貫3000円の寿司職人と1貫50円の回転寿司の場合,顧客はどちらを求めているのかということです.

1貫3000円の寿司の場合は,ある程度のグルメでなければわかりません.

つまり,人を選ぶということです.

一方で,1貫50円の回転寿司の場合は,グルメな人には向きませんが万人受けします.

入院時の説明などのベーシックな業務において,求められれているものは何かと言われれば自ずと答えは導かれるはずです.

 

 

看護師はなぜ毎年大量に退職するのか

理由は様々あると思います.

給与や人間関係,やりがいなどはよくある理由かもしれません.

 

問題は,看護部の上層部にあり

毎年毎年,これほどまでに大量に退職している企業は類を見ません.

これが看護師の業界にとって,当たり前とされていることに違和感を強く憶えます.

筆者もこの業界は長いですが,なんの対策も行ってこない看護部の上層部は何をやっているのか未だに謎です.

 

退職者が多くなると何が起こるのか

人を育てるのには時間がかかります.

1年目と5年目の看護師の場合,同じ給与とは到底思えないほど業務量には差が生じます.

それは、すなわち看護の質に反映されます.

とはいえ,1年目の看護師もいてくれるだけでも役に立っているのは事実です.

ある程度の年数により,業務量や判断に差が生じてしまうのは致し方ありません.

何が問題なのかというと,3年間育て上げた看護師が退職してしまうとそのスキルはまたゼロからのやり直しになります.

3年目の看護師がその後も残ってくれれば,その看護師が次世代の教育を担ってくれます.

すなわち健全なシステムが構築されることになります.

看護師の場合は,まだまだいくらでも就職先はあります.

病院以外でもいくらでもあるのが事実です.

ところが,病院の上層部は無尽蔵に看護師は湧いて出てくる程度にしか認識されていません.

現場の看護師からしてみれば,徒労に終わってしまうわけです.

上層部からしてみれば,ただのコマの1つに過ぎません.

 

看護の質の提示

臨床の看護師は多忙ですので,研究を行う場合はどうしても時間外の自分の時間を使って行うしか無いのが現状です.

すなわち,看護師が自ら導き出す質の提示という観点からは,どうしても困難であるというのが現状になります.

ただ,何も考えず,データも取らず,毎年毎年大量の退職者と入職者の対応をしているようでは未来はありません.

看護の世界は,大学には一般的に附属病院は医師と異なりありません.

関連病院はあります.

大学の看護先生方は,基本的には研究ができる人たちであるはずです(例外はあります).

しかしフィールドが整備されていないため,どうしても臨床的なアウトカムとは異なる,教育関連の研究テーマに偏りがちである可能性もあります.

そこで,大学の先生方,特に看護の質に詳しい先生にフィールドを提供すれば,お互いにとってWin-Winの関係性になります.

病院側としては,多忙な臨床業務に追われつつも,ある程度の年数や卒後教育を含めた知識・実践の側面から看護の質を提示してもらうのです.

そうすると,おそらくですが退職者が多い組織の看護の質は低いものとなっているはずです.

ただ,これはあくまでも仮説に過ぎませんが,裏付けとなるような研究はあります.

 

看護師の学歴と患者予後

最も有名な研究は,Aikin先生のLancetに掲載された,看護師の学歴と患者さんの予後に関する研究です.

看護配置に関するJAMAの研究もあります.

いつも言っていますが,患者さんのハードアウトカムはMortalityが最も重要な指標になります.

これらのハードアウトカムを,学歴の高い看護師はカイゼンさせているということはもっと注目されるべきです.

卒前の教育が難しい場合でも,卒後教育の充足を図ることは可能なはずです.

とはいえ,基礎教育の部分はとても重要で,算数ができない人にいくら教えても,なかなか厳しいものがあります.

リクルートの創設者である,江副浩正さんは,東京大学大学院卒のスーパーエリートに大枚をはたいて就職してもらった結果,一流企業になりました.

このように,大きな組織であっても全ては個の力のつみ重ねや,シナジー効果の結果を見ているに過ぎません.

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(14)61482-3/fulltext

https://www.thelancet.com/journals/a/article/PIIS0140-6736(13)62631-8/abstract

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/195438

 

看護師に足りないもの

リクルートの話にもありますが「あなたはどう考えているのか?」という部分を大切にしてほしいと思います.

診療看護師(NP)の場合は,自立・自律に向けて自分たちで立ち上がろうとしています.

看護師も団体としての活動は行っていますが,臨床現場単位ではまだまだ,個人が判断・実践できる環境とは程遠いと思います.

例えば,患者さん家族の面会時にとても簡単なことを聞かれても,そのようなことは医師から説明してもらいます,ということが多いです.

患者さんを最も近くで,最も長い時間看護している看護師が,患者さんの状態を家族に気軽に話すこともできないとはどういうことなのでしょうか.

もっとも,医師と看護師が間違った認識でご家族へ説明を行ってしまうと,それは大きな問題です.

わたしが申し上げているのは,本論の部分ではなく,本論以外の部分ということです.

 

 

看護師にできることはたくさんある

ADLや食事摂取なども,看護師が決めればよいのです.

医師との共有が必要であれば,毎日チェックリスト形式を用いてADLを上げていけばよいのです.

医師の指示がが床上だからとって,いつまでもベッド上で排泄や食事を行ってよいはずがありません.

看護に必要なのは,患者さんをなるべく日常に近づける援助を,専門的な知識・技術を持って行うことだと思います.

ベッド上で寝かせて,ベッド上で排泄や食事を行わせる行為は,看護の本質を見失っている様に思います.

そこで,反論として「人が足りない」という部分に帰結します.

人が辞めるから,人が足りないわけです.

自分たちの教育体制は,心理的安全性を担保できているのでしょうか.

必ず振り返る必要があります.

 

看護部長などのマネージャーの責任は

毎年毎年,大量の退職者と入職者を抱える大病院において,なぜ看護部長が責任を取らないのでしょうか.

大量退職の結果,ベッドが少なくなり病院の収益が減少した場合,責任を取るのは看護師のマネージャー方では無いのでしょうか.

もしくは,マネージャー職を与えた,経営部門の責任なのでは無いでしょうか.

管理運営が間違っているから,このような結果になってしまうわけです.

であれば,一般企業のように責任を取るべきなのではないでしょうか.

もちろん営利組織と非営利組織の違いや株式会社のように株主が不在といった違いなどはあります.

とはいえ,もう少しマイケルEポーター先生の行っているような,競争戦略を取り入れなければ大病院というネームブランドだけでやっていける時代はおしまいです.

 

 

どのような看護師が必要か

先にも書いたように,質の高い看護を実践できる実践者こそが必要になります.

大量に退職する中に質の高い看護師はいないでしょうか?

逆に言うと,質の低い看護師の場合は退職いただいて構わないわけです.

S.jobs氏が言ったように,Aクラスに,Cクラスの人材はいらないという,腐ったミカン理論と同じです.

質の高い人が集まれば,自ずと成長します.

そこに必要なのは,自律・自立や主体性といった類のものです.

 

主体性と自主性

主体的とは自主的とは異なります.

主体があるということは,他者の存在が必要です.

自主的に行うためには,他者は基本的には必要ありません.

すなわち,主体的行動とは他者に影響を及ぼす能力であるといえます.

看護管理部門は,このような質の高い看護師をどのような手を使ってでも,遺留させることが必要なのです.

 

インセンティブ

看護師の場合は,書籍に100万円使おうが,1秒も勉強しなくても,給与は同じです.

でも,看護のスキル(質)は異なります.

そのため客観的に「差」をつけることが本来必要な理由です.

最も簡単なのは,金銭的なインセンティブです.

その次には,業務の中でのインセンティブなども検討されると思います.

例えば,質の提示のために一般の看護師とは異なる業務時間を設けるなどです.

そして,それらの金銭的・インセンティブは公にされるべきです.

例えば,ラダーやポートフォリオなどの,認定制度を利用し,それらの認定制度をクリアできればインセンティブを享受する手法などはあるかと思います.

けれども,なかななそのような組織は寡聞にして知りません.

なぜ,なのでしょうか.

 

お金の流れ

それは,お金の出入りに問題があります.

病院の収益の多くは医師の行う行為に対しての診療報酬を介してのものです.

すなわち,医師がいなければ何も始まらないというのは,現行の制度上では仕方ありません.

看護師の場合は,数に対して支払われます.

よく聞かれるのが7対1などです.

看護師1人に対して,患者さん7人というものです.

実はこれは,看護師の経験年数などは関係なく,看護師は1年目でも30年目でも良いわけです.

それなら,給与が安い若手の看護師を採用しよう,というのが一般的な何もわかっていない,マネジャーの考えることです.

看護の質は家計簿とは異なります.

お金の出入りを考えるだけではダメで,自分たちはなんのために存在しているのかというのを深く考える必要があります.

すなちレゾンデートルということになります.

 

白衣の変更

看護部の考えていることはよくわかりません.

白衣の変更を行いました.

いままでは,ある程度自由でしたがこれを着なさいと強制させられるわけです.

その時点で,支配下に置きたいという表れが伝わってきます.

そして,何よりデザインがシンプルにダサいのです.

ダサいかどうかは,自分の感覚ですが,積極的に着用しようとは思いたくないデザインに仕上がっています.

例えると,中学生の体育服のような感じです.

そこまでして,看護師の主体性や選択の幅を狭める必要があるのかは疑問です.

 

ICU看護の専門性 

ICUに限りませんが,看護には専門性があります.

たとえば,成人と小児では同じ人間ですが,扱い方は大きく異なります.

治療対象となる方の多くは成人です.

製薬会社も子供用の製剤を作ったところで,売上は(領域にもよりますが)期待できないわけです.

そのため,多くは大人用の薬剤の容量を調整して使用していることになります.

ICUの場合は,さらに複雑です.

扱う臓器や疾患もとても多いです.

さらには,腎臓や心臓や肺,ときに肝臓を代替する人工臓器を扱う必要が出てきます.

これらの医療機器の場合は,1つのミスが命取りになります.

そのため,ICUには一般的には習熟した人材を確保する事が多いはずです.

それを,適当にそのへんから集めてきた看護師に務まるとは思えません.

少なくとわたしの経験では,無理です.

では,無理やりかき集められた看護師はどうするのでしょうか.

バイタルサインを温度版に記入し,医師から言われたことを行い,,それだけです.

ただ,それだけを行うのはもしかしたら,無能な仕事ができる(と思っている)看護師かもしれません.

組織に最も甚大な被害を与えるのは,無能で仕事のできない看護師ではなく,無能で仕事のできる看護師とされています.

実は仕事ができるのではなく,仕事ができると思い込んでいる,と表現した方が分かりやすいかもしれません.

大変危険な取り組みであると思います.

緊急事態なので,仕方ない部分もありますが,突貫工事すぎます.

 

ICUで行っていること

First do not harm.

まずは,悪くしないということが基本になります.

以前のNEJMの編集長であるインジェルフィンガー氏は,医療でよくなるのは10%,悪くなるもの10%,残り80%は良くも悪くもならない,と言ったと書籍で読んだことがあります.

すなわち,心不全でいうところの代償化と非代償化という表現があります.

非代償化とは,酸素や降圧などの治療介入が必要になることです.

そのため,代償化から外れないようにするのが心不全治療の基本です.

ICUで行っていることは,基本的にはこのような基本的な部分になります.

血管内の水分量が多くなれば是正します,逆もしかりで少なくなれば是正します.

ところが,看護管理においてはこのような介入は行っていないようです.

気づいたときには非代償化で,緊急に人工臓器が必要な状態だったという状況です.

それだけ,現場で何が起こっているのかを理解されていないのだと思います.

 

看護師の大量退職の先に待っているもの

退職の理由には様々あります.

どのような仕事でも,人間関係が主な理由です.

Googleのように,心理的安全性という部分が全く担保されていないのは大きな問題です.

医師ー看護師のコンフリクトもあるかもしれません.

組織マネジメントとして,多忙すぎるというのもあるかもしれません.

問題は,何が問題なのかというのを理解されていない点です.

ソクラテスの無知の知と同じく,何が問題なのかを問題として認識しなければ,解決の余地はありません.

 

Root cause analysis(RCA)

問題の根本は何かを考える必要があります.

たとえば,草があり見た目の草を取ったところで,根っこがあればすぐに次の草は生えてきます.

そのため,根っこまでしっかり取ることが必要になります.

これを根本要因分析といいます.

医療事故もおなじで,現在は人が責められる文化が根づいています.

まずは原因を追求することが必要です.

原因の追求は診断と似ています.

病気の診断は,いろんな情報を集めた結果1つの病気にたどり着きます.

診断ができれば治療が行えます.

ここでの治療とは,システムに落とし込むことです.

RCAとして,明確にシステムカイゼンを行い,次世代の退職を避ける対策は急務です.

ところが,現在行われているのは,穴の空いたバケツに1つづつ土のう(即戦力という名のもとに能力の乏しい看護師たち)を置いている作業です.

土のうはあくまでも,一時しのぎに過ぎません.

いちど全部をコンクリートで強固に固め,基盤を作り整地していくことが必要なはずです.

わたしは頑張っていると言っていますが,現場の看護師も同様に頑張っているわけです.

 

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