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はじめに
トラキサネム酸(トランサミン®)のエビデンスは、CRASH trialを始めとして周術期など多くの利益があるとされてきました。
CRASH II trialを検索していたら、日本語の論文訳を見つけました。
今まで知りませんでした。
CRASH trial
CRASH trialとは、外傷患者さんに対してトラキサネム酸を早期に使用することで、死亡率改善効果を認めたというようなスタディです。
死亡というイベントは、数が最も少ないイベントですので死亡率で有意差を出そうとすると、研究に必要な対象患者さんの数も膨大となります。
しかもトラキサネム酸は安価で古典的な薬剤ですので、今まで色んな試みがなされてきた中でも、数少ない効果を示した薬剤と言えるのではないでしょうか。
つまり、このCRASH trialでトラキサネム酸は特に外傷領域においては、確固たる地位を確率したと言えます。
CRASH-3 trailでは、頭部外傷患者さんの脳血管死亡率が少ない傾向にありましたが、有意差を持って死亡率減少効果が示されたグループは、GCS9点以上の軽症〜、頭部外傷患者さんでした。
頭部外傷全体としては、明確な結果が出ていませんでしたので、今回の大規模研究が行なわれました。
HALT-IT trial:消化管出血に対するトラキサネム酸の効果
そんな中、消化管出血に対するトラキサネム酸の効果の検証が、同じくLancetという雑誌に掲載されました。
この結果は、大々的に報道されましたが、死亡率改善効果を示すことができませんでした。
消化管出血は、基本的には内視鏡的止血がゴールドスタンダードですが、夜間の緊急内視鏡ができないような施設ですと、とりあえずトラキサネム酸を使用して、様子を見るということもあるかもしれません。
実際に、未解決問題という前提ではありますが、コクランレビューでの死亡率改善という結果もありましたので個人的にも注目していた研究でした。
結果はネガティブではありましたが、血栓症などの合併症を有意に増加させることもありませんでしたので、困ったときには今後も使用が検討されてもよい薬剤なのかもしれません。
基本的にはこの結果により、必ず使用を行う薬剤とは言い難い結果となりました。
そのため、今まで以上に使用へのハードルは上がったと言える薬剤であると思います。
rehospital Tranexamic Acid Use for Traumatic Brain Injury (TXA)
そんな中、今回の研究です。
CRASH-3 trialでは、外傷性頭部損傷の死亡率改善傾向を示しましたが、軽症患者さんが中心でしたので、未解決問題とされていました。
今回の研究では、CRASH-3 trialと同様に、脳血管関連の死亡率改善効果を示す事はできませんでした。
今回の研究は、病院前よりトラキサネム酸を投与されています。
そのため、より早期にトラキサネム酸が投与されていますが、結果としてはネガティブな結果となりました。
トラキサネム酸における研究全般に言えることかもしれませんが、止血効果に伴う血栓性合併症は増加していません。
そのため、消化管出血と同様に迷ったときには使用が検討される薬剤であると言えます。
過去の研究も併せると、外傷患者さんに対しては今回のTrialの結果が臨床実践に与える影響は少ないような気がしています。
この結果だけをもって、頭部外傷患者さんにトラキサネム酸を使用しないという選択は行い難く、他の追試の結果等を持って判断されるべきであるように感じてます。
目的
受傷後2時間以内に院外でトラネキサム酸治療を開始することで、中等度または重度の外傷性頭部損傷(TBI)患者の神経学的転帰が改善されるかどうかを検討しました。
方法
デザイン、設定、および参加者
2015年5月から2017年11月まで、米国およびカナダの20の外傷センターと39の救急医療機関で行われた多施設、二重盲検、無作為化臨床試験です。対象者(N=1280)は、グラスゴー昏睡尺度スコアが12以下で収縮期血圧が90mmHg以上の15歳以上の院外TBI患者としました。
介入
3つの介入が評価され、TBI後2時間以内に治療が開始されました。院外トラネキサム酸(1g)ボーラスおよび院内トラネキサム酸(1g)8時間点滴(ボーラス維持群;n=312)、院外トラネキサム酸(2g)ボーラスおよび院内プラセボ8時間点滴(ボーラスのみ群;n=345)、および院外プラセボボーラスおよび院内プラセボ8時間点滴(プラセボ群;n=309)。
主要アウトカム
主要アウトカムは、トラネキサム酸併用群とプラセボ群の6ヵ月間における良好な神経学的機能(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア>4[中等度の障害または良好な回復])でした。有意性の閾値は非対称で、有益性の閾値は0.1、有害性の閾値は0.025と設定されました。副次的エンドポイントは18項目あり、そのうち5項目は本論文で報告されています。28日死亡率、6ヵ月間のDisability Rating Scaleスコア(0[障害なし]から30[死亡]までの範囲)、頭蓋内出血の進行、発作の発生率、血栓塞栓性イベントの発生率でした。
結果
1063名の参加者のうち,96名の無作為化参加者に試験薬が投与されず,1名が除外されたため,解析対象者は966名となりました(平均年齢42歳,男性参加者255名[74%],平均Glasgow Coma Scaleスコア8)。これらの参加者のうち、819人(84.8%)が6ヵ月追跡時の主要アウトカム解析に利用可能でした。主要アウトカムは、トラネキサム酸群の65%の患者で発生したのに対し、プラセボ群の62%で発生しました(差、3.5%;[有益性に対する90%の片側信頼限界、-0.9%];P = 0.16;[有害性に対する97.5%の片側信頼限界、10.2%];P = 0.84)。トラネキサム酸群とプラセボ群の28日死亡率には統計学的に有意な差はありませんでした(14%対17%;差、-2.9%[95%CI、-7.9%~2.1%];P = .26)。 6ヵ月間の障害評価尺度スコア(6.8 vs 7.6;差、-0.9[95%CI、-2.5~0.7];P = .29)、または頭蓋内出血の進行(16% vs 20%;差、-5.4%[95%CI、-12.8~2.1%];P = .16)。
結論
中等度から重度のTBI患者において、プラセボと比較して受傷後2時間以内の院外トラネキサム酸投与は、Glasgow Outcome Scale-Extendedで測定された6ヵ月間の神経学的転帰を有意に改善しませんでした。