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早期バソプレシン投与が敗血症性ショック患者の転帰を改善する可能性

はじめに

敗血症性ショックは、その緊急性と治療の複雑さから、集中治療室(ICU)において依然として手ごわい課題です.

現在、ノルアドレナリンが第一選択薬として推奨されていますが、バソプレシン補助療法の最適なタイミングについては議論の余地がありました.

一部の専門家はバソプレシンを「レスキュー療法」と見なしていますが、この新しい研究は、早期の介入が患者の転帰を改善する可能性を示唆しています.

https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-025-05401-y

 

 

ターゲット試験エミュレーションによる早期バソプレシン投与の効果評価

この研究では、多施設共同ターゲット試験エミュレーションという堅牢な手法を用いて、敗血症性ショック患者に対する早期(6時間以内)バソプレシン補助療法の効果を評価しました.

この研究には、クイーンズランド州の12のICUから3,105人の敗血症性ショック患者が組み込まれました.

患者の平均年齢は62歳、APACHE IIIスコアは83でした.

 

早期バソプレシン投与がICU死亡率を低下させる

最も重要な発見は、早期バソプレシン投与を受けた患者の30日目ICU死亡率が、バソプレシンを全く投与されなかった患者と比較して有意に低いというものでした .

 

  • 早期バソプレシン群: 18.45% (95% CI, 16.26〜20.63)
  • バソプレシンなし群: 19.34% (95% CI, 17.0〜21.68)
  • 相対リスク: 0.95 (95% CI, 0.93〜0.98)

この死亡率の低下は、介入開始が12時間後、18時間後、24時間後と遅くなるにつれて徐々に減少しました.

バソプレシン開始時のノルエピネフリン等価用量(NED)が低い場合(<0.25 µg.kg⁻¹.min⁻¹)に、その効果が特に顕著でした.

これは、敗血症性ショックの初期段階でバソプレシンを導入することの潜在的な利点を示唆しています.

 

サブグループ解析と臨床的示唆

研究者たちは、ピークの乳酸値、APACHE-IIスコア、侵襲的人工呼吸の使用など、複数のサブグループで早期バソプレシンの効果を分析しました .

その結果、早期バソプレシン投与は、検討されたすべてのサブグループにおいて30日目ICU死亡率の低下と関連していることが示されました.

特に、乳酸値が4 mmol/Lを超える患者や侵襲的人工呼吸中の患者において、早期バソプレシンが有益である可能性が示唆されています.

これは、現在のSurviving Sepsis Campaignガイドラインがバソプレシンを0.25〜0.50 µg.kg⁻¹.min⁻¹のノルエピネフリン塩基投与量未満では推奨していないこととは対照的です.

今回の研究結果は、ガイドラインで推奨されているよりも低いノルエピネフリン投与量(>0.125 µg.kg⁻¹.min⁻¹だが<0.25 µg.kg⁻¹.min⁻¹)でのバソプレシン開始が望ましい可能性があることを示唆しています.

 

経時的傾向と今後の研究の方向性

研究期間中、バソプレシンの投与は年々増加傾向にあり、2015年の35.2%から2021年には45.1%に上昇しました.

これは、臨床現場でのバソプレシン使用の増加を示唆しています.

同時に、バソプレシン開始時のノルエピネフリン等価用量とSOFAスコアは徐々に低下していました.

この研究の発見は、敗血症性ショックにおける早期補助バソプレシン使用に関する将来の前向き無作為化比較試験を設計するための重要な情報を提供します.

本研究で示唆された効果の規模は限定的であるため、研究者はそのような試験を設計する際にこれを考慮する必要があります.

 

結論

このターゲット試験エミュレーションは、敗血症性ショック患者において、早期バソプレシン投与が死亡率の低下と関連していることを示唆する画期的なものです.

ノルアドレナリン用量が低い場合やピーク乳酸値が高い場合、侵襲的人工呼吸中の患者においても、早期バソプレシンは有益である可能性があります.

これらの知見は、敗血症性ショックの管理戦略に新たな視点をもたらし、より個別化された治療アプローチの開発を促進する可能性があります.

この研究結果は、敗血症性ショック患者に対する早期バソプレシン療法の恩恵をさらに確認するために、追加の前向き研究が必要であることを示唆しています.

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