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まとめ
・超音波を肺動脈カテーテルの代用として利用する
・輸液ボーラスの際,反応性とともに臓器うっ血も評価する
・VExUSの注意点はそれなりにあるので,理解する必要がある
今回の論文
https://theultrasoundjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s13089-024-00395-0
静脈うっ血の評価としてVExUS
VExUSとVolume status
Volume statusに関しては,ICUでの回診では全ての方で議論されるべきプロブレムの1つです.
実際はプロブレムではないのですが,他項のプロブレムと同様に議論されます.
なんなら,主要なプロブレム以上に白熱した議論が交わされます.
そして,興味深いのが人によって,Volume statusの認識が異なることが稀に生じます.
普通の健常な人の場合は,Volume statusについての議論はあまり行われる事はありません.
それは,自身の心臓や腎臓が対処しきれる範囲内だからです.
ところがICUの場合は,補液の量が時に大量になってしまうこともあり,自身の心臓や腎臓で処理しきれない場合があります.
代償不全をきたしてしまうと,少しの量の補液が害になります.
顕著なケースでは,心機能が低下した心不全が代表と言えます.
心不全でなくても,考えることが同じで正常範囲(代償範囲)を保つというのが鉄則になります.
Volume statusの認識の違い
ではなぜ,Volume statusの認識が異なるような事象がが生じてしまうのでしょうか.
通常Volumeが少ない,多いというのは臓器障害で定義されます.
臓器障害が出てしまった時点で,自身の臓器は代償しきれない状態に陥っています.
通常は,静脈側にはたくさんの血液がプールされています.
そして,静脈には余力がたくさん用意されていますので,よほどの事が無い限りは問題ありません.
何でもそうなのですが,口から水を飲んだり,カリウムを補充したり,よほど大量に飲まない限りは問題ないことが多いです.
ところが,血管の中に直接注入する医療行為の1つである点滴の場合は,自身の臓器が対処しきれなくなりがちな事象が生じえます.
たとえば,栄養の場合は口から摂取して,栄養量が多すぎれば排泄機構が備わっています.
しかし非生理的な点滴という行為は,いきなり血管内にいろんなものを入れる行為です.
Less is more(過ぎたるは及ばざるが如し)という言葉は,流行りですが,まさにLess is moreこそが重要なのだと思います.
自分で水が飲める人には基本的に輸液は不要
仮に心配だからといって点滴をしたところで,飲水行動を取れる人に輸液は不要なはずです.
とはいえ,ICUに入室する人たちはそのような飲水行為が取れない人たちばかりです.
そして,時に輸液の量は過多になり,良かれと思って行っている行為が実は害であることに気づいていない人もいるはずです.
看護師特定行為でも,輸液な多くの件数が行われています.
しかし,実際に輸液の必要性を理解して行っている人はごく一部の人に過ぎないと思います.
我々医療従事者は,基本的には同じ認識に近づけることが目標です.
たとえば,診断があります.
診断とは,誰が聞いても同じような病態を認識できる状態なわけです.
肺炎の場合は,肺に何らかの原因により(多くは微生物)炎症をきたした結果,酸素化が悪くなる病態です.
そして,生体の反応が過大になれば敗血症という状態になり,肺以外の臓器障害を来す事になります.
Volume statusの誤謬
Volume statusの話をするときには,人によって認識が異なります.
たとえば,心不全でよく議論される,臨床的うっ血なのか,血行動態力学的うっ血なのか,という部分は厳密に分ける必要があります.
さっくりと,血管内と血管外と分けられることも多いと思います.
ICUでの議論は,通常は血管内のVolumeの事を議論することになります.
とはいえ,血管内の体液を充足させようとすれば,血管外の体液量が多くなることもよくあります.
過去はCVP(中心静脈圧)で規定されていた時代もありました.
CVPの場合は,Exponentialのような経過をとります.
輸液をしてもCVPは変わりませんが,血管内のうっ血になると途端に急上昇を示します.
そのため,輸液の指標としては使えません.
Volume statusとして過多の場合は,CVPは比較的使えるはずです.
話を戻すと,Volume statusという議論はもしかしたら間違いなのかもしれません.
#Volume status から #Intravascular volumesへ
実際は,Intravascular volumesを議論しているので,# Intravascular volumes というプロブレムのほうがより適切に表現しているはずです.
そして,血管内容積のほうがVExUSをはじめ,いくつかのパラメーターが使用できるため,議論もしやすくなります.
すなわち,循環には血管の外の容積はほとんど影響を与えません.
血管外のVolumeが過多である場合に,循環という観点からは使えるパラメーターは少ないはずです.
たとえば,体重は全体的なVolumeの過多という点からは,適切に反映しているかもしれませんが,それだけしかわかりません.
循環という観点から,どの程度影響を与えているのかは体重では何もわからないのです.
たとえば,ホースとポンプと水があり,それぞれが充足していればぐるぐると循環します.
これらの,いづれかに問題が生じると循環に破綻をきたすことになります.
ポンプが全く変わらず,ホースの経や長さが変わらない場合に,水の量(圧)を一定にすれば,絶え間なく循環するはずです.
このときの圧がCVPであり,静脈還流曲線における平衡点としてCVPを役立てることが可能になるはずです.
VExUSは何を見ているのか
平均全身血管充満圧(MSFP)と右房圧の変化を見ています.
静脈系は通常,ゆるゆるです.
プール血管ですので,ある程度のVolume過多にも静脈にプールすることで対処できます.
とはいえ,限界はあります.
簡単に例えると,通常の静脈はギターの弦はゆるゆるの状態です.
Volume過多の場合の静脈は,ギターの弦を限界まで張った状態です.
どういうことかと言うと,少しの振動でも伝わりやすいということです.
逆に,過度に伝わるともいえます.
そのため,心室の収縮に伴って起こる波形が逆向きになる事象が生じることになります.
正常血液の人にボーラス輸液を行うと,MSFPが上昇します.
最初はVR(血管抵抗)の増加で,CVPの上昇は無いか,わずかに見られる程度です.
RV(右室)コンプライアンスの限界に達すると,CVPとMSFPはVRの増加をほとんど伴わずに急上昇します.
MSFPの上昇は,静脈うっ血を引き起こし,灌流障害をきたします.
VExUSの解釈
修飾因子として,TR(三尖弁逆流),右室機能不全,PEEP(呼気週末陽圧)などが代表です.
これらは,血管内容積を必ずしも増加させずにCVPを変化させる可能性があります.
静脈うっ血の測定値と同様に,臓器後負荷の測定値であるという認識が重要です.
VExUSは,心臓の中心ではなく下流をみる臓器の観点から循環を観察します.
後負荷上昇の原因は解釈に重要ではありません.
静脈うっ血の測定は,組織灌流と臓器機能に対する一種の警報であり症状であるといえます.
VExUSは警報として臨床医に伝えますが,問題が何であるのかを伝えることはできません.
臨床医はこれらの背景より,原因を特定する必要があります.
大事なのは,VExUSを治療するのではなく,患者さんを治療することです.