はじめに
今回は、低Naに関してインターネット上にわかりやすい資料がありましたので、紹介します。
著者は、腎臓内科で知らない人はいないほどご高名な、柴垣先生です。
正直なところ、原文を読んで頂くほうがよほどわかり易いのですが、半分自分のメモとして書いています。
水の分布
- 水は、体重の6割
- 体重の4割は細胞内液
- 体重の2割は細胞外液
- 細胞外液の1/4(体重の5%)は血管内に分布
体重50kgの場合
- 30kgは水
- 20kgは細胞内液
- 10kgは細胞外液
- 細胞外液のうち、0.5kgは血管内に分布
浸透圧と張度という考え方
- 浸透圧:体液中のすべてに作用する
- 張度:細胞内外での移動が制限される溶質濃度のみを反映する
張度が細胞膜を介した水の移動を起こす物質になる
- 細胞外では、Naやブドウ糖
- 尿素は細胞膜を自由に行き来できる
尿素は自由に移動できるため、浸透圧差が生じません。
Naは細胞膜を自由に通過できないので、張度として作用します(浸透圧格差が生じる)。
読んだままですが、溶質は細胞内外や間質などすべてに等しく作用します。
つまり、全体的な濃度勾配としての浸透圧物質としては作用しますが、細胞膜の内外を通して水を引っぱる能力はありません。
一方、ナトリウムは水を引き込む力(張度)がありますので、細胞膜を通した細胞内外の水の量が異なる可能性が生じます。
小学校の理科の実験でセロファンを通して、水の量が変わるあれです。
血漿浸透圧
- 2 x [Na+] + Glucose/ 18 + BUN/ 2.8
血漿張度
- 2 x [Na+] + Glucose/ 18
この式からわかることは、浸透圧を規定する物質は、Na・糖・尿素窒素の3つであることがわかります。
そのなかでも、Naは x 2ですので、最も強い影響を受けている事がわかります。
一方、BUNは ÷ 2.8ですので、それほど強い浸透圧物質ではないことがわかります。
張度とは、水を引っ張る力の事です。
そのため、同じ浸透圧物質でも等しく分布するBUNは張度には作用しません。
張度を規定する物質は、Naと糖の2つだけになります。
他の物質は、無視でできる程度ということです。
不均衡症候群
ただし、BUNは極端に変化した場合には問題となります。
不均衡症候群とは、透析導入間もない人に起こるとされています。
腎臓が悪いと尿素窒素(BUN)が蓄積します。
BUNは等しく分布しますので、体全体の浸透圧は上昇しています。
そこで、透析を行いBUNを一気に除去すると、脳の浸透圧がついていけない状態となります。
そのため、嘔吐や頭痛などの症状を生じることになります
水バランスの異常
- 口渇感
- ADH(抗利尿ホルモン)
この2つの調整機構がともに異常でないと、水バランスの異常はおこりません。
体に水不足が起こると、血漿の張度が上昇し、循環血液量が減少します。
からだは、水を蓄えようと抗利尿ホルモン(ADH)を分泌します。
同時に、口渇感を生じ体内の水分量を増加させます。
飲水と利尿の減少作用により、体のなかの水不足が解消される仕組みになっています。
逆に数リットル程度の水を飲んだとしても、ADHの分泌は起きませんので、尿量が増加して体液量を正常に保ちます。
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
体液量が正常からやや過剰気味の状態でADHが分泌する状態を、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)と呼びます。
SIADHの特徴は、原因があるということです。
主に、頭・肺・薬の3つですが、悪性腫瘍や嘔吐・痛みなどちょっとした刺激で起こります。
SIADHの場合は、血漿浸透圧よりも尿中浸透圧が高く、ADH(AVP)が過剰分泌され、尿中Na排泄が増加します。
高齢者の場合は、MRHE(ミネラルコルチコイド反応性低Na血症)も起こるとされています。
そもそも高齢者では、ADHレセプターの反応性が低下していますので、MRHEの素因をもちつつも、肺炎などでSIADHを来しやすい状態(もしくは、Overlap)といえます。
SIADHはADHの過剰分泌であることに対し、MRHEは反応性の低下が主病態とされています。
また、SIADHはやや水分過多であるのに対し、MRHEは脱水であることも特徴の1つとされています。
SIADHでは、水制限が治療方針の1つですが、MRHEでは元々脱水ですので水制限ではなく、ミネラルコルチコイドを足してあげることが治療の1つとされています。
血清Naとは
- Na総量/総水分量
通常は、1Lあたり140mEq程度になります。
塩1gは17mEqですので、1Lあたり塩が約8gくらい含まれる計算になります。
だたし、Naは張度を規定する物質であり、細胞膜を自由に通過できません。
そのため、細胞内に分布しているNaと水の関係性については、異論のあるところです。
細胞内と細胞外の張度は等しく保たれる
NaとKの総量を総体液量で割ると、細胞内外の張度は等しく釣り合うことになります。
つまり、NaとKの総量/総体液量の計算を行った場合の半分(1/2)は血性Na濃度に等しくなります。
例えば、Na150、K150の場合は、足すと300になります。
300÷2は150ですので、細胞外にはNa145、K5が分布する計算になります。
細胞内は、この逆になります。
血性Na濃度の低下は細胞内液量の増加を意味する
細胞内・外は等しく釣り合っているということでした。
しかし、血性Na濃度の低下が起こる場合に、細胞内外の濃度勾配が等しくなるには、細胞内の張度形成物資の減少が起こる必要があります。
そうでない場合は、血性Naの減少(細胞外張度形成物質の減少)は細胞内液量の増加を意味することになります。
そうすることで、細胞内外は均衡性を保つことになります。
低Na血症の要因
- 体内張度規定因子(Na、K)の欠乏
- 体内水分の過剰
このどちらかになります。
高Naの場合は、この逆で、張度規定因子の増加か体内水分量の減少になります。
血清Naはどのように規定されているか
食事や輸液によるIntake(Na、K、水)からOutput(ほぼ尿)を引いたものになります。
つまり、IntakeとしてのNa・K・水からOutputとしての尿中のNa・K・水は等しくなるはずです。
このIntakeとOutputの関係性が等しいという前提では以下のような公式が成り立ちます。
IntakeとしてのNa・K・水が、血性Na濃度よりも多ければ、血清Naは増加する
IntakeとしてのNa・K・水が、血性Naよりも少なければ、血清Naは低下する
Intakeを考慮しなければ
- 尿Na・K濃度> 血清Na濃度→ 血清Na濃度上昇
- 尿Na・K濃度< 血清Na濃度→ 血清Na濃度低下
低Na血症の輸液
- 尿Na+Kよりも、濃い輸液をしなければ、低Naは進行することになります。
低Na血症は
- 心不全、虚血性心疾患、肝不全、腎不全の予後悪化因子
- 歩行障害や注意力障害により、転倒増加も示されています
低Na血症治療の3つのポイント
- 症候性か無症候性か
- 急性(48時間以内)か慢性か
- 血性な濃度異常は現在も進行しているか
− 尿Na+K>血清Na → Na濃度低下
− 尿Na+K<血清Na → Na濃度上昇
脱水を伴う低Na
- 0.9%生理食塩水の投与により、改善する
- 低Naの原因としての、低Kは見逃さないようにする
溢水を伴う低Na
- 飲水制限(1L/日程度)
- 水分制限の目安:[体重(kg) x 10(Osm)] ÷ 尿浸透圧(mOsm/kg)
体液量正常の低Na
- 病態に応じた治療を行う
- SIADHの場合は、生食の投与で悪化の可能性がある
- 利尿が必要な場合は、トルバプタンは適応も考慮される
まとめ
- Naは張度と浸透圧の2つの作用がある
- 低Naをみたら、原因検索を行う
- 症候性低Naの場合は、急いで治療を行う
- 低Na補正式は、Adrogue madiasの式がよく使われる