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血液培養採取のタイミング
血液培養は、バイ菌が検出されることが目的ですので、菌が検出されやすいタイミングで採取するのが、最も目的にかなった採取方法だと思います。
それはどういう場合かというと、悪寒戦慄を生じている場合です。
悪寒戦慄の定義
悪寒戦慄の定義は、総合診療で有名な徳田安春先生らが定義した研究が大変有名です。
それは、”厚い毛布をかぶっても奥歯がガタガタ鳴る程の状況”を悪寒戦慄と定義しています。
なぜ定義が必要なのかと言うと、悪寒と言われても、その状況を想起出来なければ、つまり他の医療者にその状況が伝わらなければ意味が無いからです。
言葉というのは、ウィトゲンシュタインが述べたように、言語ゲームとも呼ばれます。
私の言った悪寒戦慄と、他の方がいった悪寒戦慄の状況が異なるようであれば、それは医療としては問題なのです。
では、何故問題なのでしょうか。
悪寒戦慄をわざわざ定義するということは、血液培養で菌が検出されやすい状況であるといえます。
つまり、血液培養を採取するタイミングは、悪寒戦慄の時だと言うことです。
だから、言葉というのは伝わらなけばならないですし、定義されなければならないわけです。
血液培養は何セット採ればよいのでしょうか。
最近は2セットが当たり前になってきています。
つまり、常識であり、条件反射です。
条件反射とは、トイレに行って手を洗う、患者さんに触る前後に手を洗うことなど、何も考えずに出来るということと同義です。
実は、医療車にとっての常識である手洗いは、トイレに行ったあとも出来てないし、患者さんに触る前後に手洗いも出来てない場合が割とよくあると言われています。
だからこそ、常識であり、条件反射にまで落とし込む努力が必要になります。
もっと極端な例では、トイレ(大)のあとお尻を拭く人は多分100%ですが、そのくらい常識かつ条件反射に落とし込むということです。
話が逸れましたが、血液培養は何も考えずにまずは2セットです。
それ以上採取する場合は、例えば6時間開けてもう1セット追加したり、中心静脈カテーテルから採取したり、などすこしだけ特殊な状況になります。
血液培養は採取セット本数が増加するほど、菌の検出感度が上がるとされています。
感度とは、菌血症ではないという確率のようなものです。
血液培養セット数による感度
1セット:73%
2セット:94%
3セット:97%
4セット:99%以上
とされています。
つまり、1セットしか血液培養を採取しなければ約25%、1/4の確率で菌血症を診断出来ないということになります。
2セットならどうでしょうか
2セットなら、94%ですので、20回に1回はほんとは菌血症だった人を見逃す可能性がアルということです。
とはいえ、一般的な診療においては十分な検出感度と言えるでしょう。
3セットはどうでしょう
感度97%なので、100回採って3回見逃す可能性があるかもしれません。
という程度ですので、菌血症の事前確率が高い場合かつ、絶対的に菌を見つけなければ行けない時は、3セット採取が推奨されています。
では、絶対的に菌を見つけなければならない状況とは、どういう状況でしょうか
これは、長期に抗菌薬投与が必要になるシチュエーションで必要になります。
例えば、感染性心内膜炎や椎体炎などです。
これらは、可能な限り事前に菌を同定してからでなければ、使える抗菌薬がわかりません。
長期抗菌薬投与で問題になるのが、善玉菌まで抗菌薬で殺してしまうということです。
だからこそ、菌の種類と感受性(どんな抗菌薬が効くか)が明らかになったら、狭い範囲にしか効かない抗菌薬を選択する必要があるのです。
具体的には、ペニシリン系のピペラシリンやペニシリンG、セフェム系ならセファゾリンといったように、なるべく副作用の少ないもののほうがよいということになります。
特に椎体炎では、血液培養で菌が検出されなければ、骨生検で培養を行うことが推奨されています。
なぜここまでやるのかと言うと、治療期間が4−6週、場合によっては8週間を超える長期治療が必要だからです。
菌がわからないのに、抗菌薬を使うという行為は、仕方ない場合もありますが、車の運転に例えると、暗闇をライトなしで走るようなものです。
血液培養セット数の話に戻ります。
4セット採取はどうでしょう
4セットでは、ほぼ100%に近い感度で菌血症の否定が出来ます。このあたりは、リスクベネフィットの考えになります。
検出感度2%の為に、血液20mlを余分に採取する必要が、ほんとにあるのかということにも繋がります。
多分利益の方が少ないので、臨床的に4セット採取のシチュエーションとしては、2セットまず採取して48時間経過後も血液培養が陽性にならないときに、もう2セット追加で採取して合計4セットということはたまに行うかもしれません。
血液培養はどこから採取するべきでしょうか
以前は動脈の方が菌量が多いとされていた時期もあるようですが、動脈と静脈では検出感度に差は無いようです。
そのため、侵襲の少ない静脈から採取することがほとんどです。
さらに、下肢は汚染頻度が高いと言われていますので、なるべく上肢からの採取が望ましいとされています。
鼡径部からの採取は基本的に禁忌と憶えましょう。
血液培養の汚染菌(コンタミ)は何の役にも立たない、臨床的プラクティスを惑わす情報にしかなりませんので、汚染のリスクのある鼠径部の選択は、辞めとておいたほうがいいです。
仮に、鼠径部から採血を行う場合は、アルコール綿で100回拭くくらいの清潔さが必要と言われています。
当然、皮膚は赤くなります。
個人的な採血部位の順番
1、上肢の静脈
2、上肢の動脈(橈骨動脈)
3、下肢の静脈
4、下肢の動脈(足背動脈)
5、鼡径部の静脈(大腿静脈)
6、鼡径部の動脈(大腿動脈)
消毒はどうするべきか
アルコール綿だけで、3枚位つかって、それこそ100回こするのであれば、アルコールだけでも十分とされています。
個人的にも、この戦略で以外にコンタミ(菌の汚染)は少ない事を実感しました。
一般的に推奨されているのは、1%以上のクロルヘキシジンアルコールです。
クロルヘキシジンアルコールは、カテーテル感染もイソジンと比較し、予防しますので、現在選択しない理由がないです。
ただ、外科系の先生方や年配の先生方は、イソジンを好んで使用されることが多い印象です。
イソジンでも悪くはないのですが、2分ちゃんと待つことと、クロルヘキシジンアルコールと比べると、汚染頻度は高くなるので、個人的には積極的にはおすすめしたくありません。
それに、衣類やシーツが汚れやすいので看護師さんにも怒られがちです。
まあ、消毒範囲がわかりやすいというのは見た目に好まれるのでしょうか。
手袋は滅菌か未滅菌か
滅菌手袋の方が、コンタミ(汚染)は少ないとされています。
ただし、コストの観点や通常の手袋でも穿刺部位に触れなければコンタミは増えないので、上手で慣れた人はアルコール綿+未滅菌手袋で十分なのだと思います。
慣れていない人は、クロルヘキシジンアルコール+滅菌手袋が必須です。
それぞれ、施設基準に準じて行うのが良いと思います。
たまには例外もあると思います。
血液採取量
通常1本10mlなので、1セットで20ml必要とされています。
できれば、最低8ml、1セット16mlはあったほうが良いとされています。
逆に多すぎても良くないみたいです。
ボトルに移す際針は変えるか
普通変えませんが、未滅菌手袋で採取の場合は手技にもよりますが変えても良いかもしれません。
また、針を変えた際は、針の中の空気をすこし押し出すことも、嫌気性菌の発育に関与するので、やったほうが良いという人もいます。
個人的にはせっかちですので、18Gの針に差し替えて、血液で針の中を満たして、嫌気ボトルから注入することもあります。
18Gだと注入スピードが早いからですが、コストのムダにもなるし、針刺しの原因にもなるのでやらないほうが良いとされています。
どちらのボトルから注入するか
嫌気ボトルから注入したほうが、確実だと思います。
好気ボトルから注入したほうが良いという意見も時々ありますが、針の中の空気を押し出せていれば、嫌気→好気の順番で良いと思います。
抗菌薬投与前には、血液培養が必要か
先にも書いたように、長期抗菌薬の投与が必要な感染症であれば、絶対にとるべきだと思います。
一方、通常の肺炎であれば、そもそも菌血症の合併は少ないですし、合併したとしても、市中肺炎であればセフトリアキソンという抗菌薬を使用すれば、5日で終了していまいます。
血液培養陽性となりやすい尿路感染症でも、原因菌はグラム陰性桿菌がほとんどですので、極端な話ですが7日間治療すれば良くなります。
やはり、ブドウ球菌のような粘り強く長期に悪さをする菌や、膿瘍の原因菌などを検出することで血液培養は非常に役に立ちます。
たまに、まあいいかと思った時に限って、こじれることが多いです。
そのため、色んな意味でコストパフォ−マンスはよくありませんが、抗菌薬を使うときには血液培養と考えておいたほうが良いのだと思います。
カテーテル関連血流感染
いわゆるカテ感染というやつです。
中心静脈カテーテルの場合は、CLABSIと呼ばれ、それ以外はCRBSIと呼ばれます。
いずれにせよ、BSI(血流感染)が絶対条件です。
ということは、カテーテル先端にバイ菌がいても、それが原因菌かどうかはわかりませんし、血流感染があるかどうかもわかりません。
わかるのは、血液培養のみです。
重症患者さんでは、発熱の原因がカテーテルとは限りません。
けれども、カテーテルが原因かもしれません。
そのようなときには、カテ先を培養に出し、血流感染で証明された菌と同一菌であれば、カテ感染だったのかなーと思うことは出来ます。
よりカテ感染の可能性を高めるには、カテーテルから採取した血液の菌量が多いことを照明する必要があります。
つまり、同じ量の血液をカテーテルとそれ以外の場所から採血した場合に、早く培養が陽性となります。
DTPとかTDP
これをDTPとかTDPと言います。
Differential time positivityとか、Time differential positivityと呼ばれます。
通常、ヨーイドンで同じ量を同じタイミングで採取して、2時間(120分)早くカテーテル血が陽性と慣れば、TDP陽性 イコール カテ感染ということになります。
普通はカテーテルの抜去に加え、規定された期間の抗菌薬を使用する必要があります。
カテを抜くだけでは、熱は下がっても、カテ感染の治療にはなりません。
まとめ
血液培養をとるタイミングは、悪寒戦慄のとき
面倒ですが、あとあと苦労するので抗菌薬を使用する場合には、なるべく採取する
消毒はアルコール綿でゴシゴシしてから、クロルヘキシジンアルコールが良さそう
慣れていない人は、滅菌手袋着用で、マスクも忘れず着用
鼠径部は基本的に禁忌と、自分の中でルールを作っておく